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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
ここまで出て御座れ。そこは、男でも這入るところではない。女人は、とっとと出てお行きなされ。
姫は、やっと気がついた。そうして、人とあらそわぬ癖をつけられた貴族の家の子は、重い足を引きながら、竹垣の傍まで来た。
見れば、奈良のお方そうなが、どうして、そんな処にいらっしゃる。
それに又、どうして、ここまでお出でだった。伴の人も連れずに――。
口々に問うた。男たちは、咎める口とは別に、心はめいめい、貴い女性をいたわる気持ちになって居た。
山をおがみに……。
まことに唯一詞。当の姫すら思い設けなんだ詞が、匂うが如く出た。貴族の家庭の語と、凡下の家々の語とは、すっかり変って居た。だから言い方も、感じ方も、其うえ、語其ものさえ、郎女の語が、そっくり寺の所化輩には、通じよう筈がなかった。
でも其でよかったのである。其でなくて、語の内容が、其まま受けとられようものなら、南家の姫は、即座に気のふれた女、と思われてしまったであろう。
それで、御館はどこぞな。
みたち……。
おうちは……。
おうち……。
おやかたは、と問うのだよ――。
おお。家はとや。右京藤原南家……。
俄然として、群集の上にざわめきが起った。