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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

浪はただ、足もとに寄せている。渚と思うたのは、海の中道である。浪は、両方から打って来る。どこまでもどこまでも、海の道は続く。郎女の足は、砂を踏んでいる。その砂すらも、段々水に掩われて来る。砂を踏む。踏むと思うて居る中に、ふと其が、白々とした照る玉だ、と気がつく。姫は身を屈めて、白玉を拾う。拾うても拾うても、玉は皆、掌に置くと、粉の如く砕けて、吹きつける風に散る。其でも、玉を拾い続ける。玉は水隠れて、見えぬ様になって行く。姫は悲しさに、もろ手を以て掬おうとする。掬んでも掬んでも、水のように、手股から流れ去る白玉――。玉が再、砂の上につぶつぶ並んで見える。忙しく拾おうとする姫の俯いた背を越して、流れる浪が、泡立ってとおる。

姫は――やっと、白玉を取りあげた。輝く、大きな玉。そう思うた刹那、郎女の身は、大浪にうち仆される。浪に漂う身……衣もなく、裳もない。抱き持った等身の白玉と一つに、水の上に照り輝く現し身。

ずんずんと、さがって行く。水底に水漬く白玉なる郎女の身は、やがて又、一幹の白い珊瑚の樹である。脚を根、手を枝とした水底の木。頭に生い靡くのは、玉藻であった。