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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
そうしてその辺を約三十分ほど歩いたそうです。それからくわしい話をするため、二人でタクシーに乗って東京から三里ほど隔たっているMという所に行き、そこのNホテルに入りました。
彼等がNホテルに着するまでに如何なる事を語り合い、如何なる目的を以てホテルまでわざわざ行ったかということは、勿論二人以外に知っている者はない訳です。従ってその二人の中、小夜子が死んでしまった後は、ただ春一の供述を(そのまま信ずるか否かは別として)兎も角根拠にしなければならないわけです。
二人がタクシーでNホテルに着いたのは午後七時前でした。彼らがもと楽しい時を過ごしていたころ、Nホテルにしばしば行ったことがあるのでホテルの雇人はよく彼らをおぼえていました。雇人に訊しても、ホテル到着の時間は確かに七時前だったのです。
そこで二人は直ちに一室を約束しました。ホテルでは七号室という階下の角の一室を提供したそうですが、その時春一も小夜子も出発の時間は少しもいわなかったので、ホテルの方では勿論その夜は其処で二人が泊るものと信じていたのでした。
それから約一時間の間二人が、何を語ったか何をしたか外の者に判るはずがありませぬ。