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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
無論被告人の供述だけを証拠にして簡単に起訴したわけではありません。種々の取調をしたのでしたが、必要がありませんから、今いったよりここには述べないことにしておきます。
春一は予審中に保釈を許されましたが、公判が開かれたのは翌年の一月でありました。
公判廷においても、被告人の陳情は従来と変りません。大した波瀾もなく公判は進み、やがて私の求刑すべき時がまいりました。
私は、まず事件の経過を述べ、至ってその犯罪の明瞭なることを指摘しました。被告人に殺意はあったとは思われぬけれども(之は必ずしも被告人の陳述を全部そのまま信じたわけではありません)然し被告人の述べるが如く、正当防衛であるとは絶対に考えられない。のみならず被告人平生の酒量から見て、当時前後を忘れるような状態にあったとは信じられぬ、よって被告人は傷害致死罪の責任を負うべきものなることを主張しました。ついで情状論に入り、仮りに被告人の陳情を凡て真なりとするも、なお且つ被告人の行為は甚だ道徳に反するものである。相手が如何なる女であるにせよ、被告人の態度は一人の女人に対して余りに無責任である。しかも犯罪の日の夕方から約二時間、被害者と被告人との間に如何なる議論があったか知る由もない。