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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
但しこの話のすべては、私が直接職務の上で関係しているのですから、当事者の名を明かにするわけには行きません。凡て仮名を用いますからその積りで聞いて頂きたいのです。
事件は、先ず私が検事をしていた時から始まります。
仮名ですからこう申しても、或いはすぐ思い浮べられないかも知れませんが、昭和×年の秋、須山健吉という有名な実業家の息子で、須山春一という、あの当時二十五歳の青年が、刑事事件の被告人として法廷に立った事があります。この話はあの事件から出発しますが、あの時、須山春一に対して公訴を提起したのは即ちかくいう私であります。
事件そのものは極有りふれた珍しくないもので、それこそあなたの小説の種になりそうもありません。いや成ればむしろ、通俗小説でしょう。恋愛小説ですね。
何分被告人の父親というのが、須山健吉といういわば上流社会の人ですから、事は極めて有名な事件になってしまいました。健吉氏の長女即ち被告人春一の姉は、某子爵の後嗣の所に嫁いでいるし、健吉氏の夫人の弟は貴族院議員になっていますし、そうして健吉氏自身は大会社の重役です、そういう人の一人息子で、且つ××大学の学生である春一が、刑事被告人になったのですから、これは世間が騒がない方が不思議だと申してよいかも知れません。