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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
そこで私は、須山の主人が自家用車で外出中、その家族が外出する時、どこの自動車を利用するかということを調べ、その結果自宅附近の××タクシーという高級車ばかりおく自動車屋が出入するということを極めました。
私は隠忍しました。偽名は時が長く経過する程ばれ易いわけです。うっかり××タクシーに雇われても、春一に近づく機会が来ない中にこっちの身分がばれてしまっては折角の計画も水の泡です。私は暫らく様子をうかがっていたのでした。
さすがに春一も世間態をはばかったか、その春は余り外出しませんでした。その中初夏になりましたが、そのころやっと出はじめるようになりました。いくらか良心がとがめていたか出はじめるころは妙に陰気な男になっていましたが、然しもう行く先は花柳の巷です。
時はよしと、丁度運転手が一人出たのを幸い私は××タクシーに住み込んで須山の家の用を勤めることになりました。
勿論、春一一人ではありません。健吉の妻も乗りました。然し大抵は春一が乗るのです。私は須山家から電話がかかると、他の運転手の番であっても成るべく都合して、自分が行くことにしてしまいました。
こうやってこの夏の夕暮に、私は、殺人遊蕩児を乗せて、昼は、赤坂に、夜は柳橋に、向島に新橋にと、ビュイックやナッシュを走らせていたのです。