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ししゃのけんり
死者の権利
浜尾 四郎
「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页
このまま殺して復讐になるでしょうか。彼の知らぬ間に殺していいでしょうか。妹はそれで満足するでしょうか。
私は極度の憎念に嘔気を催しそうになりました。爆音を立てながらいざ走ろうという時、いきなり自分の座席から手をのばして彼を突きました。殴りました。そして、
「起きろ!」
と叫んだのです。彼はそれでもいくらか判ったと見え、
「苦しい、水を、水を」
とうなりました。酔っ払いに水は定石でしょうがそれにしても命をとられる今、余りのんきな奴です。私はいきなり車を走らせると同時に、
「呑みたけりゃいくらでも今のませてやる。オイ、須山! 俺は小夜子の兄きだぞ、判ったか!」
と叫びながら、ひらりと車の側にとび下りました。彼はその途端、いきなり私に掴みかかろうと立ち上りましたが、車内にがくりと仆れてしまいました。実に一瞬間の印象です。
車はスピードを出して走って行きました。
妙に不気味な数秒間でした。
あたり一面は闇いのに、ヘッドライトに照された景色だけは昼のようです。そうしてその光景を展開させながら真黒な怪物が爆音を立てて驀進して行くのです。
私は反動で一旦土に投げ出されましたが地に伏したまま目を離たず車の走って行く方向をみつめました。