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あぶらじごく

油地獄

斎藤 緑雨

「国会新聞」1891(明治24)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页

青空文庫

貞之進は、親く女と連立ったは初てなりその女は小歌なりで、嬉いような恥しいような、それで何だか落着ぬようで、往来の人に顔を隠したくあり見られたくあり、旦那お合乗如何ですと、からかい半分の車夫に跡を躡られて、足を早めて小歌と離れたが、まただん/\に寄て来て、手を取らぬばかりになって米沢町を右に、元柳橋から二つ手前の細小路へ折れて這入った。

燈籠の火の幽かに洩れる格子戸を開けて、お神さんお客さまと、小歌が庭に音を立てれば、この春泉というは待合で、円顔の雛形ともいうような廿ばかりの婢が出迎え、貞之進をちらりと視て奥にしましょうかと小歌に云えば、そうねえあなた入来いと、上り口を横に通過ぎて、庭づたいに小歌が先へ立て行くを、婢は竹筒のような台の洋燈に、俗に玉火屋というのを懸けたのを右手に持て潛りぬけ、奥まった一室の障子をあければ、三尺の床に袋戸棚が隣ってそこから座蒲団が引出され、掛花活の薊は大方萎れて、無頓着が売物の小座敷だ、婢は云う御酒は、小歌は云うあがらないの、だけれども印しにと貞之進に向い、あなた御飯はと小歌が尋ぬるに、まだと貞之進が云えば、何になさいます