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あぶらじごく
油地獄
斎藤 緑雨
「国会新聞」1891(明治24)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,624 字 · 69 页
のもある。貞之進はきまりの悪いのを隠そうがためにかえってきまりが悪く、座敷へも這入らず椽へも出ず、敷居の辺をうろついて居たが、今方這入て来た代言とでも云いたい洋服の若紳士が、無紋の黒八丈の羽織を着た商人風の老紳士と出会って、軽く挨拶して行去ろうとしたが、老紳士が頭を挙げないのでまた下げると同時に老紳士が頭を挙げ、若紳士がまだ挙ないことと思っておのれもまた下げて居るのを、奇観々々これをお辞誼交際と名けると、遠くで見ておかしがって居た藍縞の一重袴を穿いた男が、図に乗過ぎて何さんとか呼ばれて振返る途端に、明けかけの障子の親骨へ、したゝか頭を打つけたのもまた奇観であった。太平記で云えば、これを戦の手始めとして、追々参着した会員の百余名と註せられた時、そろ/\膳部を運び出されたので、貞之進も恐々末席へ就いたが、あとで思うとあまり末席過ぎて両隣りが明いて居るため、かえって誰の目にも附くようで我ながら鈍ましい、これにしても知己のひとりでも来ればと、そっと席上を見廻すに、その人々はいつの間にか来て遙の上席に傲然とかまえて居るので、貞之進はいよ/\心細く、こうなってからの助けは、途中で買足して来た