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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「こんなに早く、うるさいねえ、いったい誰が来たんだい」
不機嫌そうに梶子は云った。
「はじめてのお方でございます」
「なおのことそんなもの困るじゃアないか。いないと云って帰しておしまい」
「かしこまりましてございます」
「まあお待ちどんな人だえ!」
「お武家様でございます」
「お武家様、誰だろう」
「若いお武家様でございます」
「若いお武家様、へえ、そうかい」
「好い男でございます」
「ばか、いやだねえ、チビのくせに、もう色気がついているんだよ」
「ホッホッホッ、まあ奥様」
「気味の悪い笑い方するものじゃアないよ」
「ホッホッホッホッ、まあ奥様」
「お名前何んとかおっしゃったかい?」
「松浦民弥とおっしゃいました」
「ナ、何んだって!」
と飛び上がった。
「あれ、ご免、ご免あそばして!」
「ナ、何んだって? 何んておっしゃったって?」
「マ、松浦、タ、民弥様!」
「馬鹿!」
ギュッとお梅の胸もとを、梶子は掴んで締め上げた。
「ヒ――ッ、ご免! ご免あそばしませ!」
「ナ、なぜ早く! ナ、なぜ早く!」
「ヒ――ッ、奥様! 追い返しますほどに!」
「ば、馬鹿馬鹿! そうならそうと、ノッケにお名前云えばいいに! ……こいつがこいつが! ホッホッホッ! ……急いで飛んでってご丁寧に、ご案内してお茶やお煙草盆を……」