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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

大旗本などのお部屋様――上品ではあるが色気もたっぷり……と云ったような着つけをしていた。

「まあまあこれは松浦様、どうした風の吹きまわしか、こんな妾のところへなど。……でもようこそ……ほんにようこそ」

坐りもしないうちからこう云って、どんな鉄腸の男であろうと、トロリとさせるような妖艶の笑いを、惜し気もなく豊麗な顔に湛え、ムーッとするような凄い色気を、腰のあたりの蜒りに見せ、さてそれからヤンワリと、民弥に近々と寄って坐った。

そうして民弥が時候の挨拶から、来訪した理由を真面目の調子で、少しばかりコワ張って云い出したのを抑え、

「まあよいではございませんか。……平几帳面のご挨拶は、知らない仲じゃアあるまいし、抜きといたそうではございませんか。……ホッホッホッいつお目にかかっても、あなた様にはお美しく……いいえ冴え冴えとしたご様子で、結構様にございます」

――ここでグラリと肉附きのよい躯を、左の方へ蜒らせて、腰のつがいの軟かさを示し、眼を細くしてウットリ閑と、民弥の顔に見入りかけたが、ハッと気がついて少し赧くなり、

「今日もどうやら蒸し暑く、厭なお天気でございますねえ」