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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

相手が梶子というしたたか者だけに、民弥は心を苦しめた。

この頃この家の玄関先で、刃三十郎とお梅とが――小間使のお梅とが声を忍ばせ、ヒソヒソ話をとり交わせていた。

「おいお梅さん、これ心附けだよ」

三十郎はこう云いながら、紙にひねった小粒を出した。

「ありがとう、済みませんねえ」

云い云いお梅は小粒をいただき、帯の間へ押し込んだ。

「へえ、それじゃア松浦って人が、梶子様を訪ねて来たんだね」

「いえ、それが大変でしてねえ」

と、お梅はクスクス笑いながら云った。

「大変? ふうん、大変なんだね? ……が、どんな風に大変なんだえ」

三十郎はケシカケるように、面白そうにこう訊いた。

「あの梶子様が、ねえ、あの梶子様が、おハシャギなされて大騒ぎ、お化粧じゃ、お召しかえじゃと、お部屋の中をテンテコ舞い、大変なさわぎかたでございましたよ」

そう云ってお梅は口に袖をあて、たまらないというようにクスクス笑った。

三十郎はイヤな気がした。

嫉妬の感情がムラムラと、胸へ込み上げて来たのである。

「お化粧じゃ、お召しかえじゃ……! なるほど、で、テンテコ舞いか! クソ! まあまあそれもいいさ。