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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「…………」
「人形様が夫婦なら、お守りの私達二人の者も……」
またジワジワと膝を進め、
「夫婦でなければ格好がつかず……」
「…………」
「オホ、嬉しいじゃアございませんか。……お梅や!」
「は――い」
すぐ隣室から、お梅の答える声がして、襖がとたんにひらかれた。
「おやお梅そこにいたのかえ?」
「イ、い――え、来かかりまして……」
「そうかえ、それならいいけれど、立ち聞きなんかしちゃアいけないよ」
「まあそんなこと……まア奥様……」
「何をマゴマゴ! ……お酒の仕度おしな」
「いや梶子殿、酒などなかなか……」
驚いて民弥は手を振った。
「明日は出立でございますれば、これより屋敷へかえりまして、万端用意いたしませねば……」
「そうでしたねえ、そうおっしゃられれば、妾も明日出立ゆえ、諸事あらかた取りまとめねば……」
「梶子殿、今日はこれで……」
と、民弥は一礼して立ち上がった。
「お酒はゆっくり泊まり泊まりの旅籠で。……ホ、ホ、……妾は何んだかこう……」
これほどの女ではあったけれど、恋にかかっては全く盲目、娘の子のようになってしまい、梶子はソワソワウロウロした。
その日の夕方、黄昏時に、中山様のお屋敷の角で、――柳の木蔭に佇んで、三十郎とお梅とが話していた。