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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「これはいらっしゃい」

と云ったものの、宿の男や女たちは、変な顔をして眼を見合わせた。

着流しで浪人の姿ではあったが、しかし立派な若い武士が、馬借宿などへ来たのであるから。

「泊まりではない、心配するな」

三十郎は笠の中で笑った。

「由蔵という博労がおろう、当家に宿を借りたであろう」

「へい、さようで、お泊まりでござんす」

「ちょっとその男を呼んでくれ」

「かしこまりました、ちょっとお待ちを」

男衆が奥へ素っ飛んで行ったが、すぐに三十一、二にもなろうか、博労らしい男を引っ張って来た。

「こりゃア旦那、おいでなさいまし」

「由蔵、ちょっと耳を貸しな」

「へい、よろしゅうございます」

二人は揃って戸外へ出た。

「一件いよいよ今夜やるよ」

「一件、旦那、一件といえば?」

「野郎を俺が叩っ斬り、女と人形とをお前たちが攫う……」

「ああなるほどあの一件で」

「そのため従いて来た貴様たちじゃアないか」

「ちげえねえ、そうでした」

「で今夜火事を出す」

「火事を? へえ、どこへですい?」

「奴らの泊っている桔梗屋へよ」

「で、誰が火事を出すんで?」

「俺よ、刃三十郎よ」

「荒療治だ! 荒すぎますねえ」