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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「猫の蚤とり? 何んでございますな?」

相手がかりにも武士だったので、突剣呑の挨拶も出来ず、当惑しながら番頭が云った

「猫の蚤とり、存ぜぬかな、……すなわち猫にたかっている蚤を、このなめした猫の皮に移し、取りつくしてやる商売じゃ」

「器用な芸当でございますなあ」

「こういう田舎にはないかもしれぬが、江戸では大分流行っている。……拙者は江戸から参ったものじゃ」

「へえ、さようでございますか。……が、当家には猫というものが……」

「偽りを申すな、そこへ来たではないか」

「アレマア勘の悪いドラ猫だよ」

「その方らにとってはカンの悪い、ドラ猫であるかは存ぜぬが、拙者にとっては救いの神、さてこの猫の蚤をとる。ついては行水をさせていただきたいもので、さようさよう猫に行水を。……それへ腰につけた猫の皮を、スポリとかぶせて抑えつけますと、猫にいた蚤どもが、こっちの皮へことごとく移る……何んでもないが理屈に合った話。さあさあ猫に行水さしてくだされ」

兵庫は愉快そうに云うのであった。

が、鵜の丸兵庫としては、なにもこの猫の蚤をとって、金にしようというのではなく、猫の蚤とり猫の蚤とりと、そういうことを云うことによって、奥の部屋にいる松浦民弥に、自分が来たことを感じさせ、往来へまで出て来て貰いたい。