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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

――とはいえうっちゃっては置けなかった。

二人は人形箱へ飛びついて行った。

その間も煙りは火気を雑えて、濛々と部屋へはいって来た。

刃三十郎がならず者どもと一緒に、この旅籠へ放火したのであった。

見よその刃三十郎は、黒の頭巾で顔をつつみ、着流しの裾高々と端折り、手なずけた博労や雲助や、浪人くずれの無頼漢、十数人と乱入し、遮る宿の者や旅人どもを、撲り仆し蹴倒し無二無三に――民弥と梶子を探しながら、今こっちへ走って来ていた。

「松浦という侍と、梶子という女の部屋はどこだ!」

「ここか?」

「違った!」

「こっちだこっちだ」

喚きながら走って来ていた。

それとも知らぬ民弥と梶子とは、人形箱を持ち合って、部屋から廊下へ走り出た。

「いた――ッ」

と三十郎は大音をあげた。

「それその箱をひっ攫え! ……それその女を担いで行け!」

一方鵜の丸兵庫の一党は、取り返した五十嵐右内を囲み、火事と事変とを聞き込んで、備前屋の方へ馳せ集まる、火消し、町の者、見廻りの藩士、そういう人々が満ち満ちている巷を、かき分け押しわけ一散に、桔梗屋の方へ走って行った。

この往来を真っ直ぐに走り、桔梗屋の前を走りぬけ、さらに脇本陣柊屋を通り、二町あまり行った地点から、西南の方へ野道へ出、それを三里あまり行ったなら、めざす青塚の郷へ行ける。