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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「ふふん」
と梶子は鼻を鳴らした。
「あたしが亭主に持とうっての、お前さんじゃアない筈だよ」
「民弥! 松浦民弥だというので?」
「さっきハッキリ云ったわね。……その通りさ、お気の毒だね」
「…………」
また三十郎の胸の中へ、民弥を憎む感情が、蛇のように鎌首をもたげて来た。
「梶子殿!」
と凄まじく云った。
「もし松浦氏この世になくば?」
「何んだとえ? 何んだって?」
「民弥殿この世に生きおる以上は、拙者の恋はとげられぬと、このように仰せられるのか?」
「…………」
今度は梶子が沈黙し、ヒヤリと寒い気持ちになり、じっと三十郎を凝視した。
「よもや……」
と梶子はやっと云った。
「よもや民弥さんを手にかけて……よもやそんなことあるまいねえ?」
「…………」
「もしそんなことしようものなら、……」
「…………」
「怨むよ! ……怨むよ! ……怨むよ! ……怨むよ!」
(この女何んにも知らねえなア)
三十郎は腹の中で、セセラ笑いながらそう思った。
(恋の敵でなかろうと、この俺を親の敵と狙う、あの松浦民弥の命を、取らないで置く俺と思うか!)
三十郎は立ち上がった。
「おい三十郎さん、どこへ行くんだよ?」