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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

紀州家の御曹司萩丸様を人質として取ってあることで、どのように敵方が傍若無人でも、この萩丸様の命の安危を、多少でも顧慮に入れたならば、理不尽に打ってはかかるまい。――これがこっちの強味であった。

はたして敵は今日の朝から、あなたの森までは進んで来たが、そこにいつまでも止まっていて、火ぶたを切ろうとはしなかった。

「鵜の丸殿」

と嘉門は云った。

「そろそろ使者が来る頃でござるな」

「さよう」

と兵庫も笑ましげに云った。

「使者が来る頃でござります」

「使者とのかけあいがむずかしいて」

「かなりむずかしゅうござります」

「どんな人物がやって来るか、相手の使者の人物次第で戦いとなるか和睦となるか……」

「なるべく事を穏便にし、和睦したいものでございます」

「や、来たらしいぞ、使者が来たらしい」

遙かの森から騎馬の武士が二人、供人を連れて現われた。

やはりそれは使者であった。

一人は井上家の郡奉行、志水但馬という武士であり、一人は紀州藩士であって、五十嵐右内を警護して来た、その警護方の隊長であったところの、加藤源兵衛という武士であった。

嘉門の屋敷の前まで来ると、二人はさすがに馬から下り、供人一人を走らせてよこし、