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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「おやおやあなたが五十嵐様で。……あたしゃア梶子という女ですよ!」

「おおお前が梶子であったか、噂は鵜の丸殿や松浦氏より、承わって存じおる。……松浦氏と連れ立って、人形箱を送りながら、京都へ出たということも……」

「よくご存知、その通りですよ」

「その女が何んのために、このような時にこのような場所へ?」

「変な事情から犬帰村へ落ち、そこで井上家と紀州藩との、連合軍にぶつかって、面白ずくからその勢に味方し、萩丸様を奪ってみせると、豪語して青塚まで来たというものさ」

「当方にとっては萩丸様は、なくてかなわぬ大切の人質、それを何んぞや面白ずくで、奪い取ったとは不都合千万! これ萩丸様を当方へ渡せ!」

云いながら右内は馬を煽り、梶子へ廻り組もうとした。

と、梶子は帯の間から、素早く懐剣をひき抜くと、萩丸の胸へ切っ先をあてた。

「何をいたす!」

と右内は驚き、馬の手綱をうしろへ引いた。

「萩丸様を、おのれ梶子、刺し殺す気か! 待て待て待て!」

梶子は歯を見せて笑ったが、

「気絶している萩丸様、殺そうと生かそうとあたしのままさ。……と云ってむやみに殺しゃアしないよ。あんたが偉そうに権柄ずくに、ロクロク話もつけない先に、取り返そうとなさるから、それで懐剣さしつけたまでさ。