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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

そんな所に二挺の駕籠が、ぼんやり客待ちをしていたということ、そのことがもう胡散であって、萩丸が普通の市井人だったら、早速疑がいを起こしただろう。ところが萩丸はそうではなく、紀州家の御曹司で世間知らず、ことには菊女の媚態に魅せられ、心を乱している時だったので、躊躇せず駕籠に乗って追わせたのであった。

が、そういう萩丸ではあったが、さすがにこういう屋敷へ来て、こういう土間へ立って見れば、考え込まざるを得なかった。

(変に気味の悪い屋敷だなあ!)

まず萩丸はそう思った。

土間を中心にしてその右には、無数の部屋があるらしく、古障子や古襖や、古板戸がタラタラと並んでいた。そうして左には馬小屋らしいもの、鶏小屋らしいもの、物置らしいものが、太い格子や細い格子を、こっちへ向けて立っており、二階へ行ける箱梯子が斜めに高くかかっていた。

でも森閑として人気がなかった。

(無断に奥へはいって行って、咎められるようなことはないだろうか?)

つづいてこれが心配になった。

しかし萩丸は娘に対し、今も心は夢中であった。

その娘は鼻の先の、裏庭のどこかにいるような気がする。

(咎められたら詫びるまでのことよ)