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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「ひそやかな生活、結構でござるな」

「人が少のうございますので」

「お嬢様かな、背後におられるのは」

「はいさようでございます」

「ご主人ご夫婦に娘ごにそなた、下女一人に下男一人――といったようなお生活ではござらぬかな」

「よくご存知、さようでございます」

薄気味悪いというように、乳母は武士をジロジロ見た。

「アッハッハッ」

と、武士は笑った。

「ナニさ商売道によって賢く、猫の蚤とりのこの業で、諸家様へ立ち入り立ち寄りますので、自然家族の多寡有無、知られ感じられるというまでで。……薄痘痕のある四十男など、ご家内中にはおりますまいな?」

「え、何んでございますって?」

「アッハッハッ何んでもござらぬ。……もうよかろう、蚤とれた筈じゃ」

云い云い武士は猫を包んだ皮の、一方の端へ手をかけた。

濡れている猫の毛に住んでいる蚤が、乾いている猫の皮へ住居を移す。これはありそうなことであり、この理を商売化したものが、すなわち「猫の蚤とり」なのである。

蚤を移らせた猫の皮を、巻物のように細く巻くと、武士はそれを帯へ差し、いくらかの鳥目を戴いて、その家から外へ出た。

「蚤とりましょう、猫の蚤とり!」