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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「決を取るの取らぬのとまどろッこしゅうござる。今夜ただちに命を奪い、一つには我らの先輩ともいうべき、慶安義挙の人々の、修羅の妄執を晴らすがよく、二には我らが義党の多数を、生け捕りいたした暴状への返報、これを致すがよろしゅうござる!」
一角は柴田三郎兵衛の、遠縁にあたる人物で、牛込藁店に神道無念流の町道場を開いている、四十に近い人物であった。
三郎兵衛は正雪の股肱として、思慮深遠智謀衆秀と、こう称されていた人物であったが、一角はむしろ情熱家で、実行力には富んでいたが、思慮にはむしろ欠けていた。
で、性急にそう云って、捕えられている萩丸の命を、今夜奪えというのであった。
一座はしばらく黙っていた。
どうやら夜風が出たと見えて、裏庭の方から戸の軋む音や、枝葉の騒ぐ音が聞こえて来た。
と、鈴木権太左衛門が、やおら膝を進めて云った。
「さようさこれは一思いに、殺してしまった方がようござろう。第一我らの眼から見た時、貴族の御曹司と申す奴、変に高慢でわがままで、何んとも虫が好きませぬ」
肺を患っている権太左衛門であった。
余命少ないと自分自身を、諦めている彼であった。