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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

嬉しさに泣かれるばかりであった。

「菊女殿!」

と同じ思いの、鵜の丸兵庫も涙を眼にかけ、ひしと菊女を抱きしめた。

「もう大丈夫! もう大丈夫!」

三十郎に至っては、すっかり狼狽し恐怖した。

兵庫や右内に出でられて、民弥に助太刀されたひには、それに打ち勝つ希望はない。

洞窟内で逢った時には、暗所ではあり枝路がありして、それを利用し巧みに逃がれたが、こういう広場ではそれは出来ない。

(ここで俺はいよいよ討たれるのか!)

絶体絶命の思いがした。

が、姦智には人一倍たけた、その方では頭のいい彼であった、忽ち素晴らしい妙案が浮かんだ。

懐中へ片腕を差し込むと、守り袋を引きずり出し、その中から紙片を取りいだし、それを頭上に高くかざし、

「方々見られよこの紙片を! これこそ方々が手に入れようとして、苦心して探しておられるところの、萩丸様自筆の宥免状じゃ! 拙者人形の隠し所より、発見いたして肌身につけ置いた! ……このことは既に菊女殿へは、拙者申して置いた筈! ……これがそれじゃ、宥免状じゃ! ……さて松浦民弥氏、いかにも拙者は貴殿にとっては、父親の敵に相違ござらぬ! ……で、拙者を討ちたかろう! ……――が、拙者は討たれるのは厭じゃ! ……まだまだ拙者年も若く、それにまだまだいろいろのことを、やってみたくて仕方ござらぬ。