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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

……彼らが承知いたせば和じゃ、反対いたさば戦いじゃ」

「これはごもっともに存じまする」

「彼らといえども馬鹿ではない、わしからさよう申し入れたならば、おおよそは聞いてくれるであろうよ」

その翌々日のことであった。上村の湾から紀州の御座船が、和歌山さして帆をあげた。

姉小路卿、萩丸様、梶子に菊女に兵庫に民弥とが、胴の間のお座敷に座を占めていた。

「これはいずれもわしのお友達じゃ」

こう例によって砕けた調子で、紀州藩士たちに姉小路卿は、兵庫達を紹介した。

藩士たちは前後の事情から、その者たちの何者であるかを、うすうす知ってはいたけれど、姉小路卿にそう云われては、どうすることも出来なかった。

天気はよく海は穏かで、やがて御座船は和歌山の港へ、つつがなく無事に到着した。

こうして数日が経過した。

と、この頃から和歌山お城下に、不思議な辻斬りが行われ出した。ある時には浪人姿で、またある時には乞食姿で、一人の男が道を歩いてい、向こうへ行く人を追い越して、振り返りざまただ一刀に、相手の者を斬り仆し、物を奪うという辻斬りであった。

うしろ斬りの無双の悪剣!

――で、和歌山の藩士たちは、切歯して口惜しがり、どうぞしてそいつと巡り逢い、討って取ろうとひしめいた。