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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

その言葉の中には疑惑と非難と、恋人をしてそのような業に、たずさわらせたくないという女心とがあった。

「や、これには理由がござる」

と兵庫は少し声を低めて云った。

「頼宣卿のお心が、われらにいよいよ不利となり、敵対行動をとらねばならぬと、そういう状態にでもなりましたら、このお城下の地理や人情に、通じておらねば不覚をとりましょう。……そこで蚤とりの姿となって……」

「まあまあさようでございましたか。……でもどうぞしてそのような悲境に、おち入りたくないものでござります」

菊女はこれまでの千辛万苦が、骨身にこたえていると見えて、そう暗然とした言葉つきで云った。

また三人は沈黙した。

「松浦氏ご存知かな?」

と、ややあってから兵庫は云った。

「うしろ斬りの悪剣をもって、辻斬りする者のあることを?」

「さよう」

と民弥は頷いて云った。

「昨日聞きましてござります」

「刃三十郎ではあるまいかな?」

「そのように思われてなりませぬ」

「紀州の藩士どもが討って取ろうと、だいぶ機会を狙っているが、三十郎であるとすると、貴殿にとっては親の敵、他人に討って取られてはならぬ」

「御意のとおりにござります。