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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

と、四人の中の一人の武士が、そういかめしく呼び止めた。

が、三十郎は返辞もしないで、同じ歩調で歩いて行った。

「浪人待て!」

ともう一人の男が、立腹したように声をかけ、すぐ背後に近寄ると、片手で三十郎の袖を握った。

「チェッ」

と三十郎は舌打ちをして、向こうを向いたままで右の肘を、グッと胸まで持って行った。

「わッ」

海老のように躰を曲げ、肩から胸板まで斬り下げられた男は、朱に染まって地に仆れた。

「斬ったぞ!」

「さてこそ!」

「辻斬りのオン敵!」

「遁がすな!」

と後の三人は喚いた。

が、同僚がノタウチながら、地上を蜒り蜒っていた。

うっちゃっておくことは出来なかった。

で、一人が介抱に残り、二人が曲者の後を追った。

しかしこの時にはもう三十郎は、遙か向こうを走ってい、そこに出来ていた四辻を、左の方へ曲がって消えた。

しかし二人の変装した藩士は、追うのを断念しなかった。

つづいてすぐに四辻を曲がった。

と、曲がった一瞬、大胆にも曲者が向かって来た。

「朋輩の敵!」

「辻斬りの悪漢!」

左右から切り込んだ。

と、曲者は飛び退いたが、

「人違いでござろう、粗忽なさるな!」