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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「そう云ったものでもござりますまいよ」
と菊女は自信がありそうに云った。
「手を代え品を変えて説いたとはいい条、まだまだ他に二つばかり残っている手がござりまする」
「ナニ他に? 手が二つ?」
これは墨染めの法衣姿の僧範円の言葉であった。
「愚僧には萩丸殿殺された後で、経読む以外手はないに」
これにはみんな笑い出してしまった。
と、はじめて松浦民弥が、少しく膝を進めて云った。
「冗談事はさておいて、まこと菊女殿に策あって、萩丸殿に宥免状を、認めさせること出来ますなら、何よりのことと存じ申す、二つの手があると仰せられる。その手菊女殿仰せられたい」
それに勇気をつけられたように、菊女はいよいよ熱心に云った。
「その一つの手は萩丸殿を、虫部屋の中へ入れまして、一種の拷問をいたしますことで……」
「ナニ虫部屋へ!」
「おお虫部屋へ!」
「なるほど虫部屋!」
「これは凄い!」
「いかさま名案!」
「名案名案!」
「あの虫部屋へ入れられようものなら……」
「いかな強情の萩丸殿であろうと恐怖に堪えず苦痛に堪えず……」
「我々の云うこと聞きましょうぞ」
同志たちは口々に云い出した。
「もう一つの手は?」