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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
と民弥は笑っていた顔を、ここでにわかに厳めしく!
「ついてはまことにお痛わしゅうござるが、虫部屋と称する特殊の部屋へお住居をお移し致さねばならず、いやお移しいたすでござろう!」
「虫部屋?」
と萩丸は怪訝そうに、その清らかな少年らしい眼へ、疑惑の色を浮かべたが、
「何か? 虫部屋とは? え、何か?」
「そこへおいでになりましたら、自ずと知れるでござりましょうよ」
「そうか、行こう、どこへでも行く」
「ではおいでなさりませ」
云って民弥は立ち上がった。
「どこにあるのだ、その虫部屋は?」
「私についておいでなされ、おのずと知れるでござりましょう」
「おおそうか、では行こう」
間もなく二人は月の光で、蒼白く見える裏庭へ出た。
その裏庭には尚二軒の、独立した建物が立っていたが、その一軒の門口へ、つかつかと民弥は寄って行った。
「爺、いるか、用意は出来たか」
「へい」
と云いながら一人の老人が、門口へ姿をあらわした。
それは義党の本部ともいうべき、これらの建物を管理している、万平という老人であり、萩丸へ飲食の世話をしていた、その同じ老人であった。
「へい、用意はお云い付けどおり、致し置きましてござります」