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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
壁に添って走る物、萩丸の足の方へ走って来る物、その横を擦り抜けて走る物、――数百匹をもって数えられた。
それは蜥蜴の群であった。
無数の羽虫がどこからとも知れず、蒼白い月光がほんの幽かに、射し込んでいるだけのこの部屋の中へ、その月光を消すばかり多数に、舞い込んで来て渦巻き出したのは、それから間もなくのことであった。
立派な武士の身でありながら、猫の蚤とりというような、最下等の職業に鵜の丸兵庫が、平然として従事しているのは、一つには生活のためではあったが、二つには彼が虫類に対し、愛と興味とを持っていたからであった。
兵庫に関する伝説によれば、彼はこれと云って正式立った、昆虫学者ではなかったけれど、すなわち正式に昆虫学を修めた、正当の学者ではなかったけれど、趣味をもっていろいろの虫を集め、興味をもって研究して行くうちに、実験から得た知識の堆積が、自ずと彼を昆虫学者にし、一家をなしていたと云われている。
彼は採集して来たさまざまの虫を、それぞれ区別して籠や瓶や、箱や檻などに大切に納め、飼養したということであるが、その虫類の飼養場が、この屋敷のこの家であり、今萩丸が苦しめられている部屋にも、先刻まではそれらの瓶や、籠や箱などがあったのであるが、萩丸をその部屋へ入れるについて、それらのものを隣室に移し、空部屋のよう