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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
あのような目に逢わせましょう……この屋敷から出たいと仰せられる。はいはい妾が、この菊女が、お供をしてお逃がせいたしますとも……」
「お前がわしを逃がしてくれるか……頼む菊女逃がしておくれ! ……でも、お前はどういう女なのじゃ! ……こんな所に、こんな所にいる。……そうしてわしをあんなにして、こんな所へおびきよせた! ……いったいお前はどういう女なのじゃ! ……いやいやよい、どんな女でもよい。……わしは好きじゃ、お前が好きじゃ! ……ね、行こう、一緒に行こう。……わしの館へ一緒に行こう! ……そうして一緒にくらすとしよう。……さあ出よう、ここを出よう」
貴族の御曹司の一本気と、世間知らずのわがままと、若さから来る直情とで、萩丸はこう云うとヒョロヒョロした体で、立ち上がって部屋を出ようとした。
「萩丸様」
としかし菊女は、にわかにここで冷やかになり、たしなめるような声で云った。
「まずお坐りなさりませ。……ご一緒に出ようと仰せらるるなら、妾ご一緒に出ましょうが、その前になにとぞわたくしどものお願い、おきき届けてくださりませ」
「ナニ願い? 願いをきけ? ……おお聞くとも、何んでもきく、そちの願いなら何んでもきく!」