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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「まずまずゆっくりお話しなされ」
壮麗な書院へ卿を招じ、茶菓を出し打ちくつろぎ、親友同志でもあるかのように、伊豆守は歓待した。
「何んとお礼を申してよいやら、まこと今回は伊豆守殿には、分外のご厚情にあずかりまして、忝けない儀にござります」
豊かな頬、広い額、おだやかな眼の姉小路卿、外交に慣れた柔かい調子で、いかにも嬉しいといったように、こう云って改めて会釈をした。
「お互いに安堵いたしましたよ」
伊豆守は朗かに云った。
伊豆守も老境であった。もう六十歳を過ごしていた。
しかし元気は壮者をしのぎ、頭脳も今に明晰であった。
それに京都の殿上人たる、姉小路卿などとは事かわり、生きた日本の政治に参与し、永らく執政にいた人だけに、鋭さは遙かに上であった。
容貌なども引き締まっていて、切れ長の眼、薄い唇、険しいまでに高い鼻など、寸分の隙さえ見られなかった。
「いよいよ明後日ご出立かな?」
と、何気ないように伊豆守は訊いた。
「さよう」
と姉小路卿も何んでもないように云った。
「あの地のどなたかにご伝言でもござらば、お伝えいたすでござりましょう」
「忝けのうござる、では一つ……」