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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「あぶない、松浦氏、背後からはあぶない!」

ハッと退いた間一髪に、疾風迅雷! うしろ斬り!

「あッ」

民弥だ!

斬られたか?

いや助かった助かった!

背後からはあぶないと云われたとたんに、さてはいつぞや鵜の丸殿に、話しに聞いた入谷田圃の、うしろ斬りの悪剣の持ち主か! ……で、横斜めに退いたからで、辛うじて難をまぬかれた。

が、その二人が相手を知って、さすがにギョッとした隙を狙い、三十郎は脱兎の如く、裏木戸の方へ走り出した。

「エイ」

菊女が声をかけた。

夜空を切って閃いたは、三十郎を目がけて菊女の投げた、短刀の刃に他ならなかった。

振りかえりざま、

バッ!

叩き落とした。

と、三十郎の覆面が、その一刹那地へ落ちた。

「やア汝は刃三十郎!」

叫んだは松浦民弥であった。

「父の敵! 汝! おのれ――ッ」

今は夢中、復讐の一念、危険も忘れて斬り込んだ。

鏘然!

一合!

飛び違った。

父の敵を討つのであった。

民弥の意気は天を衝き、鉄壁をも貫く勢いであったが、三十郎はこれに反し、敵を討たれるという弱味があって、太刀先がにわかに鈍って来た。

「松浦氏、こいつが敵か?」