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わたしのりれきしょ

私の履歴書

井上 貞治郎

――放浪の末、段ボールを思いつく

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,380 字 · 69 页

青空文庫

家も安治川一丁目のげた屋の裏に月四円五十銭で借りた。四畳と三畳の二間だけの長屋で路地のまん中あたりに共同便所がついている。

男のひとり世帯である。ここへは北の芸者がよく遊びにきた。その中のひとり、およしというのをじょうだんに家の中へ閉じ込め、外からかぎをかけてほっておいたところ、その女は尿意をもよおして辛抱できず、床の間の花立てに用を足してしまった。

商売に門司へいって宿のお手伝いさんをくどき、あくる日まっ昼間の波止場で『ゆうべの約束をどうしてくれる』とそでにとりついて泣かれ、大弱りしたこともあった。

けれども、ここらで身を固めて出直さなければとまじめになって考えてもみた。第一、家を借りたからには家事をしてくれる女もほしい。そんなとき、得意先のアスベスト会社の支配人が女房の話を持込んだ。

『家のお手伝いの妹ですてきな女がいるんやが、どや、ひとつもろてみいへんか?』

『すてきな女? ほんなら、もらいましょ』

ふたつ返事である。早速五円の結納金を出してふろ敷包み一つと、鏡つきの花嫁をもらったが、どうしたわけか、そりが合わず、結局五円の手切れ金を出して間もなく別れてしまった。