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かがくブームへのくげん

科学ブームへの苦言

中谷 宇吉郎

「文藝春秋」文藝春秋新社、1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,269 字 · 24 页

青空文庫

この豊富な水資源を充分に利用すれば、電力の方でも、また灌漑の面でも、まだまだ生産が上がるはずである。また洪水による巨額の被害と、人命の損失もまぬかれることができる。

この方面の調査や研究も、大分進んで、これからという頃に、急にブームは、原子力発電の方へ移ってしまった。同時に、総合開発などという言葉は、ほとんどジャーナリズムの世界から消えてしまった。そして動力協定がどうのこうのというような、いわば空な議論が、世の中を騒がす時代になった。

動力協定がいやなら、動力炉などアメリカから買わなければよい、と前にいったが、私はそれを別に暴論とは思わない。原子力発電が、何か日本の動力の救世主のように、一般に思われているが、これもジャーナリズムにあおられた結果である。原子力でも、石炭でも、水力でも、出来た電気は、同じものである。この一番肝腎なことを忘れさせるように、科学ブームが作用しては困る。しかも当分の間は、原子力の電気が一番高いのである。

水力が開発しつくされ、石炭も化学原料として使う分しか残っていなくなった将来では、動力源は原子力にたよるより仕方がない。しかしそれはまだ大分遠い将来のことで、現在のところは、プルトニウムの行方について騒ぐよりも、水力の開発と、火力発電所の近代化を考えた方が、ずっと利口である。