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ちくはくき

竹柏記

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1951(昭和26)年10月~1952(昭和27)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,798 字 · 91 页

青空文庫

なかんずく、貴方と笠井との縁組の件などはね」

「お侍のなかにも、呆れけえった人間がいるもんだと、あっし共みてえな、こんな野郎がたまげてますよ」

それが木屋徳というのだろう、三十四五になる、痩せた、際立って眉の濃い男が、ひどくしゃがれた声で、嘲弄するように云った。

「お友達が若気のあやまちで、ちっとばかりしくじった、てえしたこっちゃねえ、武士はあいみ互い、まして友達同志なら、出来ねえことをしたって庇いあうのがあたりめえだ、おめえさん岡村の旦那の友達じゃあねえのかい」

孝之助は黙っていた。相手は続けた。

「ほんの目くそばかりの金を用立てて、そいつを枷に友達の想い者を横から取り、文句を云えば旧悪をばらすぞってよ、まるっきりぺてん師のやるこっちゃねえか、おめえさんそれでも侍のつもりかえ」

いかにも下賤にふみ跨がった、ねばりつくような木屋徳の調子は、殆んど聞くに耐えないものであった。しかし孝之助は侮辱を忍んで、八束に向って云った。

「おれはいつか云った筈だ、あの人を嫁に欲しい、あの人と結婚するためなら、どんな手段をも辞さない、……これはおれの本心だし、今でもこの決心に変りはない、だがこれは、おれがあの人を嫁に欲しいというだけではなく、あの人を不幸にしたくないからでもあるんだ」