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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

名探偵花房一郎は、新聞記者の漫談から時局の動向を判ずるような、そんな特高根性を持って居たわけではなく、これは刑事中のインテリとして、東京の一流の記者達に交友を持ち、仕事の合間合間に此処へやって来て、凡そ職業意識とは縁の遠い、文芸、美術、劇映画から、酒を論じ、美人を語り、流行の哲学書をくさしつけたり、空瓶を叩いて、「カロ・ミオ・ベン」や「サンタ・ルチア」位を、ちょいと良い声で歌う雅懐も持って居たのです。

「ところで、今日は千種君が見えないようだが」

花房一郎はややトロリとなって四方を見廻しました。ブランデーを両掌の中に温め乍ら、まさに相手が欲しくなった程度の酔です。

「兄貴は出張だよ、名古屋から大阪へ廻って居るんだ、明日あたりは帰って来る筈だが――」

足の勇は大ジョッキを半分乾して、唇の泡を拭き乍ら、此方へ椅子を向けました。これも相手が欲しくてたまらない様子ですが、連れの虎井満十はすっかり廻り過ぎて、ストーブの側で舟を漕いで居ります。

「浮気をし乍ら廻って居ちゃ、一日や二日は延びるんだろう」

花房一郎は心得たことを言います。その頃の新聞記者の旅行などというものが、どんな性質のものか、悉く呑込んで居る調子です。