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わらうあくま

笑う悪魔

野村 胡堂

「ロック」筑波書林、1948(昭和23)年12月~1949(昭和24)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,687 字 · 55 页

青空文庫

「いや飛んでもない、千種十次郎は新聞社会で聞えた清教徒だよ」

虎井満十は薄汚い髯面を挙げました。舟は漕いでいるようでも、何処か確かなところがあったのでしょう。尤も種取りの名人と言われた満十は、狸寝入の芸当も武器の一つにして居たのです。

「新聞記者の清教徒――昭和五年の日本には珍らしい人種だな、――尤も新聞記者の中には、ストーブで尻を暖ため乍ら、時候外れの冷たいビールを呑む人間も居る」

花房一郎はまだ未練らしくブランデーの盃をいつくしんで居ります。

「これか、――これはどうも止せねえよ、尤もスタウトをお燗して呑んで見たが、あまり結構じゃないね、大年増の初恋に付き合って居る味だ」

足の勇は残りのジョッキを一気に呷って、フーと虹を吐きます。ノートルダムの庇の怪獣のような色気の無い表情になることは、本人も気づかない様子です。

「そんな味噌濃いものを味わった経験があるかい、早坂君は」

「飛んでもない、物の譬だよ、俺は年増女と月賦の洋服屋は相手にしないことにして居るんだ執こくて叶わないからね」

「話が下品でいけないな、もう少し高尚な話題を捜しちゃどうだ、例えば斯う芸術とか哲学とか」