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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

箭弾丸の飛んで来る戦場のまん中で、こう……悠然と石に腰をかけて待っておいでになる、そこへ井伊どのの老臣で木俣土佐という者が馬を煽って来た、殿には大音に呼びとめて、――馬を貸し候えと仰せられたが、相手も合戦のまっただ中で馬をゆずるわけにはいかない、お貸し申すこと相かなわず、と答えていってしまった、五人までそうやってお呼びとめあそばしたそうだ、あとで将軍家(家康)が、足でも萎えたか、とお笑いなされたら、『足は萎えませぬが平八郎忠勝ともあるものが徒だちの戦をしては御名にかかわりまするので』とお答え申上げられたとのことだ」「そのとき殿がお呼びとめあそばした者のなかに深谷半之丞もいたんだ」田中善左衛門という者がそう言葉をしはさんだ、「かれも殿にその馬貸せと呼びとめられた、ところがかれは見向きもせず、御免候えと云ったきり駆け去ってしまった」「いや、あれにはわけがある、あのとき深谷は敵の侍大将を追い詰めていたんだ」「そうだ、鷲津対馬をひっしと追い詰め、馬を合わせたとみるなり一槍で突き落した、実にあざやかな突きだった、なにしろあれはお旗まわり随一の兜首だったからな」