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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

「……乗るものだな」そういう言葉が聞えたので、忠勝がそっとふり返ってみると、家康が頷き頷き笑っていた。やがて技の書上げが披露された、具足を着けた藁人形では半之丞ひとりがまさしく急所を突止めた、弓射では日根野外記が正中、銃射はこれまた半之丞だけが鉄張りの盾を射抜いていた。つまり技では深谷半之丞が筆頭だったのである。……湧きあがる喝采をあびながら五人の騎者は正面桟敷へ召され、将軍秀忠からひきでものを賜わった。それが済んだあとで、家康が半之丞をそば近く呼び寄せた。「そのほうだいぶ老耄の馬に乗ったようだが、本多家にはあのような馬しか飼っておらぬのか」「恐れながら御側まで申上げます」「ゆるす、即答でよいぞ」「本多家には名馬逸物の数が少なくございません、あのような老馬を持っておるのはわたくし一人でございます」「それでは今日の催しになぜ逸物に乗らなかった」柔和な眼がそのとき鋭く半之丞の面をみつめた、「このような場合には、その家ずい一の馬を出すのが普通ではないか、ことさら老耄の馬を選んだには仔細があろう、申せ」半之丞は平伏したまま黙っていた。忠勝はかれの無口を知っている、ここで日頃の癖を出されてはならぬと思ったので「半之丞、お答え申上げぬか」