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こうばいつきげ
紅梅月毛
山本 周五郎
「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页
出発点から三段ばかりのところに、具足を着せた藁人形が騎者の数だけ立っている。乗り手はその藁人形に槍をつける、次ぎに幅二十尺深さ三尺の水場があり、それを渉ると、一丈ばかりの急勾配の丘を越したところで弓と矢をわたされ、五十歩の距離にある懸けの的を射る、そこから二段ほどさきで幅六尺ばかりの壕を跳び、いちばんさいごが銃射だった、これは二十間ほど離れた鉄板張りの盾を射つのである。……先を切っていた井伊家の騎者は、藁人形へ槍をつけたとき乗り損じて落ちた。「ああ、先頭が落馬した」という叫びごえと共に、人々の眼はようやく先頭のはげしい競りあいに集った。水場では二番と四番の馬が転倒し、騎者は二人とも水浸しになった。丘を越して弓射のときには榊原家の日根野外記が先頭だった。ついで壕を跳ぶところでは又しても二騎が乗り損じ、一騎は壕へ墜ちた。かくて銃射をして無事に出発点まで戻ったのは五騎だけであった、……一番は酒井家の馬、日根野外記は二番、そして三番は、……とことこと半之丞の馬が三番めにはいって来た。「おお見ろ、本多どのの馬が三番をとった」「あの老馬が三着についたぞ」駆けだしたときとおなじ調子で、とことことはいって来た半之丞の馬を見ると、桟敷いっぱいにどよめきの声が揺れわたった。