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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

「どうもよくないな」厩から出て来た半之丞は、憐れみのこもった眼で馬をみつめながら、平首から鬣のあたりを撫でた、「せっかく晴れの馬場へ出られるというのに、……これではだめだ」「なにかお催しでもございますのですか」娘は耀くような眼で半之丞を見あげた。お梶だけには半之丞はよく口をきいた、気が合うというのか、娘が控えめで諄いところがないためか、二人になるといかにも気がるに話をする。しかし今はなにかしらこころ重げで、うんと頷いただけだった、そして間もなく住居のほうへ去っていった。

明くる朝はやく松野権九郎が訪ねて来た。「おまえひどいやつだぞ半之丞」相対して坐るといきなり権九郎がそう云った、「昨日の入れ札におまえは自分の名を入れたろう」

半之丞はまじまじと相手を見るばかりでなんとも云わない、権九郎はもくぞう蟹のように毛の生えた手で膝を叩いた。「おれにはちゃんとわかっている、十六枚の札が十五枚まで半之丞であるわけがない、断じてあり得ないことなんだ、なぜかといえばだな」かれはにやっと笑った、「なぜかといえば、一枚はいった松野権九郎の札はすなわちおれが自分で入れたんだ」