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こうばいつきげ

紅梅月毛

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社 、1944(昭和19)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,869 字 · 32 页

青空文庫

半之丞はびくともしなかった。「おれの札をおれが入れたからには、おまえがおまえ自身に札を入れぬかぎり十五枚集るわけがない、どうだ、それに相違あるまい」「念を押すことはないさ」ようやく半之丞がそう云った、「百遍やれば百遍、おれは自分に札を入れるよ」「一言もない、おれもたぶんそうするだろう、だがそれはそれとしてたのみがある、ちょっと庭へ出て呉れ」権九郎はせかせかと座を立った、「さあ……ちょっと庭までだから」

半之丞はしぶしぶ立ちあがった。権九郎は自慢の馬を曳いて来たのである、つまり競べ馬には是非その馬に乗って貰いたいというのだ。しかし半之丞が庭へおりるとすぐ、表から新しい客が馬を曳いてはいって来た、「深谷どの、話ではわからぬから実物をごらんにいれ申す、この馬を見て頂きたい」「待て待て」権九郎がおどろいて立ち塞がった、「おれが先着だ、おれの馬が済んでからにしろ、順番だ」そう云っているところへまた一頭、逞しい月毛を曳き入れて来る者があった。そしてすぐまた一頭、続いて二頭、あとからあとからと忽ち十四五頭の馬が庭いっぱいになった。葦毛あり、鹿毛あり、白、栗毛、青など、とりどりの馬が犇きあい、朝の光りにつやつやとした毛並を競って、あっちでもこっちでも蹄で地を蹴ったり勇ましく嘶いたりした。