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うつくしいにほんのれきし

美しい日本の歴史

吉川 英治

「週刊文春」1959(昭和34)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,561 字 · 37 页

青空文庫

こう聞いたので、上司がさっそく調べさせてみると、じっさい彼らの薄給はひどかった。で、その年度の代りに、物価とやや均衡のとれた昇給を行って、それからまた折を見て、陛下に伺いを出してみた。

『いかがでしょうか。吹上からごらんになってもお分りでございましょうが、東京全市すべて夜々あのとおりな電燈の灯の海です。ここのお座所もひとつ電燈になされましては』

すると、今度はすぐ頷かれたとの事である。

『いいだろう、電燈は結構だ、ひくがいい』

やはり陛下はおそばの下級官吏たちの薄給と蝋燭屑との不可分な関係を知っておられたのだった。電燈をひけばその年の盆暮から彼らの生計の切廻しがつくまいと案じられていたし、そうかといって、そういう宮内行政の末梢におくちばしを出すのも控えられて、結局、数年のご不自由をしのんでおられたものとみえる。

私は千葉胤明翁から聞いたこの番茶ばなしを、いつも夜の三宅坂あたりでは、つい思い出すのだった。あの辺から見る日比谷、数寄屋橋、銀座へかけての近年の夜景などは、いかにそんな話などは早や古くさいかを嘲っている不夜の虹のようなものだ。しかしすぐ横の暗い静かなお濠の水は、明治の水とも余り変ってはいない。