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おちばいき
落ち梅記
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页
それにも拘らず医師のほうでは妙に大事をとり、初め五七日といったのを倍にし、次いでもう暫く、この月いっぱいというように延ばしていた。賜暇が出たのはそのほうから進言でもあったのだろう。助左衛門は不満らしいようすだったが、それでも温和しく安静をまもっていた。
人の出入りが多くなったためだろうか、半三郎はとんと姿をみせなかった。由利江とその母親とは二度ばかり来て、茂登女となにか話していったが、おそらく公郷へとつぐ了解を得るためだったろう。これもその後は来るようすがなく、茂登女もふっつりと、由利江の名を口にしなくなった。
八月下旬、参覲のために江戸へゆく藩主に従って、助左衛門も元気に立っていった。医師もその頃はもう大丈夫と云っていたし、誰ひとり危ぶむ者はなかった。それが出立して三日め、もう昏くなってから早馬で使者が来た。沼原の駅で助左衛門が卒中を起こし、意識不明になっているというのである。
「大丈夫です母上」金之助はすぐさま立って身じたくをした、「――いちどあって二度めというのはそのままいけなくなるものではないそうです、すぐ容子をお知らせしますから」
彼は馬に乗って使者と共に出ていった。