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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

まだ十五六で前髪がある、眉と眼の凛と張ったなかなかの美少年だったが、こちらの顔を射抜くように見ながら、名を慥かめたのち金之助だけ中へ入れ、襖を閉めて座を立った。

――これは平馬ではない。

こう直覚しながら向うを見た。およそ三十帖ほど敷ける部屋の、中央から上座へかけて六曲の屏風一双で囲ってある、少年はそこへいって低い声で取次いだのち、戻って来て「預かります」と、金之助が右手に提げていた刀へ手を差出した。刀を置いてゆくとすれば身分の高い人に違いない、――たれびとであろう。金之助は囲ってある屏風の端へいって、坐ろうとすると中から呼ぶ声がした。

「作法は無用だ、はいれ」

金之助は摺足ではいった。緋の毛氈を敷いて、酒肴の膳を前に民部康継が坐っていた。金之助は思わずあっと云ってそこへ手をおろした。食膳の脇にもう一人、やはり十五六の少年が侍している、康継はちょうど手にしていた盃を差出して「近う」と云った。

「いや取次には及ばぬ、このまま取れ」

金之助は膝行して盃を受けた。侍していた少年が銚子で酌をした、――康継は別の盃を取りながら、少年に座を去れと命じ、金之助と二人きりになった。