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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

「先日は久びさで会ったのに言葉もかけなかった、今日はあの頃の話でもして悠くり盃を遣わしたいと思うが、事情があってそのいとまがないのだ、――それですぐ要談にはいるのだが」

康継はこう云って脇息の肱を起こした。逞しい頬に血がのぼり、ちからのある澄んだ双眸がいっそう光りを増すようにみえた。

「さきごろから藩の政治が紊れ、老臣どもの汚職のおこないがあることを知っておるか」

「おそれながら殆んど不案内でございます」

「国許ではさような評は出ていなかったか」

「その職にあらぬ者が政治を口にしますことは固く禁じられておりますし、私自身さような評を耳にしたことはございませんでした」

康継は盃を置いた。

「その方が知らなかったのには理由がある、はっきり申せばそのほうの父、沢渡助左衛門がその首謀者の一人だからだ」

「――――」金之助はすっと全身の血が冷えるように感じた。

「助左衛門を中軸とする老臣どもが、藩の財政を背景として京、大阪、江戸の三カ所に商舗を経営しているのだ、領内から産する生紙、絹糸絹布、海産物、また米穀売買などまで、商人を使って営業させ、長い年月にわたって私腹を肥やして来た」