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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

「おそれながら」金之助は堪り兼ねてこう云った、「――私にはお言葉の意味がまったくわかりません、私は父をよく存じております、父はお役に立つほど有能ではないかもしれませんが、さような悪事のできる人間でないことだけは」

「それはわかっている、さればこそおれがそのほうを呼んだのだ」康継はその抗議を予期していたように頷いた、「――助左がいかなる人物かということは、父上はもちろんおれにもよくわかっている、また商舗を経営したそもそもの根元には、なにかやむを得ぬ理由もあったようだ、しかしよほど以前から事情はまったく違ってしまった、かれらはその事業を私欲私利の具に使っている、領内の物産はかれらが一手に押え藩の名において不当に安い価格で買上げる、これをおのれらが経営する商舗で売るのは云うまでもない、藩で必要とする物産雑用品も、すべてこの機構を通って納入される、これらの売買による利潤はかれら自身に分配され、損失のあるばあいは藩の財政に転嫁して来た、……そして、かれらはその中軸に助左衛門を据えている、側用人という職はもちろん、藩主の信任のもっとも篤い人物として、いざとなれば助左を主謀者とし、助左に全部の責任を負わせるよう、巧みに事が拵えてあるようすだ」