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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

金之助のあたまはまだ昏乱から覚めていなかった。すべてが余りに突然で、殆んど悪夢の中にいるような気持だった。しかし康継の言葉が終ったとき、彼ははっと一つの事に思い当った。それは父に預けられた書類包のことである、武庫から出して自分の部屋の長持の底へしまった、あの由ありげな包、――国許の老臣たちが父に強要していたと思えるあの書類包、……あの中にこんどの問題の証拠となるべき物が入っているのではあるまいか、そう思いついたのである。

「仰せの趣よくわかりました、それが事実なればもちろん、私ども父子をいかようにも御処置あそばせ、ただ一つお願いがございます」

「聞こう、遠慮なく申せ」

「私をいちど国許へ帰して頂きたいのでございます、と申しますのは」

金之助はその書類包のことを語った。老臣たちがしつこく父に迫ったようす、それがその書類にあったと思われることまで。――康継はひじょうな興味を唆られたらしい、唇を噛み眼をつむった。それから屹とこちらを睨むようにしたが、「しかしいまそのほうが帰国してはかれらの疑惑をまねく、誰か使いを遣ってとりよせることはできぬか」

「父は家人にも気づかれるなと申しました、それについ先日、国許の母より音信がございまして、父の病状が悪くなったと伝えてまいりました、御承知のように私はいま殆んど御用がございませ