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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

ぬ、危篤の病父を見舞うということがお許しを願えれば、それほど疑われることもないかと存じますが」

助左は重態かと云って、康継は暫く考えたのち、心が決ったように頷いた。

「よかろう、しかし急ぐぞ」

金之助はできるだけ早く許しを取って帰国すること、その包を開いてみて、もし関係書類であったら直ちに江戸へ戻ること、連絡は下屋敷の村松平馬を通じ、もっとも隠密におこなうことなど、あらましのうちあわせが済んで、さがろうとしたとき、彼は若狭守の容態をきいた。

「助左衛門と同じ御病気だ」康継はふと胸苦しげに云った、「――御発病の初めから全身が御不随であられたらしい、侍医の言を楯に老臣どもが拒むため、おれもいちどきりおめどおりをしてはいないが、……ただしきりに涙をおながしなさるばかりで――」

それ以上は言葉が続かなかった。金之助は間もなく辞してその茶屋を出た。――上屋敷へ帰る途中、かれはようやくおちついてくる気持のなかで、ありありと自分がいま嵐の中にいることを感じた。父が二度めの発作を起こして以来、眼にし耳に聞いたかずかずの疑惑の断片が、今やはっきりとその正躰を現わすかのようだ。