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おちばいき

落ち梅記

山本 周五郎

「講談倶楽部」大日本雄弁会講談社、1949(昭和24)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,748 字 · 61 页

青空文庫

これまで単に不審であったもの、なんの意味とも知れなかったものが、康継の言葉によって仮面をぬがされた。もはや疑う余地はなかった。彼は自分をとりまく嵐の意味と、自分の位置の動かし難さを了解する、それは考えたよりも決定的であり重大である。……だが金之助には不安も恐れもない。寧ろいままでのどんな時よりちからづよくおちついていた。彼は久しぶりで平明な表情になり、一歩ずつ大地を踏みしめるような足どりで上屋敷へ帰っていった。

金之助がいとまを得て故郷へ帰ったのは四月はじめであった。父は十日まえに死んでいた、その知らせといれちがいになったわけである。――喪主が勤役ちゅうは帰国できるか否かわかるまで葬礼は延ばされるのが通例だった。もちろん遺骸は荼毘にしてあったが、金之助が着くと共に改めて通夜その他の法要がおこなわれ、そのため人の出入りが多くて、数日はなにをすることもできなかった。

由利江と会って話したのは、それがひとおちつきした日の午後のことだった。朝から梅雨のような細かい雨が降っていて、明けてある窓の外には、庭に茂る樹々の緑がいま描きあげた絵のように、新しく鮮やかに濡れていた。